先生のためのガイドページ

  1. はじめに
  2. リモートセンシングについて
  3. ASTERについて
  4. 教材の概要と授業の進め方
  5. 更なる充実に向けて


1. はじめに

小中高校の新指導要領では,総合的な学習の時間を新たに設けることとなり,小中学校では平成14年度から,高校では平成15年度から本格実施されることとなりました。しかし,現在までの所,その取り組みには小,中,高の間で大きな格差が見られます。小学校では地域を舞台に様々に展開されており,教師もその可能性に期待を持っていると報告されています。しかし,中学校になると高校受験の影響や類似行事(選択教科や修学旅行など)との兼ね合いで現場に混乱が見られます。更に高校になると大学受験との兼ね合いや現場の意識の低さもあって,特に普通科では準備の遅れが際立っており,課題が山積していると報告されています。

一方,理科教育では指導要領の改訂で「理科総合A」などの科目が創設され,温暖化,酸性雨,水質汚染など,地球環境の重要性を理科の授業を通じてどう学ばせるかが重要なテーマとなっています。加えて,高校では平成15年度から普通教科「情報A・B・C」が実施予定であり,履修する生徒の興味や関心に応じた授業展開が期待されています。

こうした背景の下,社団法人・日本リモートセンシング学会(略称:RSSJ)では,経済産業省所管の財団法人宇宙システム開発利用推進機構(旧:財団法人・資源環境観測解析センター(略称:ERSDAC))からの委託を受け,衛星データの教育現場への利用普及を図るべく,その指導案や教材の作成を企画いたしました。当学会では,インターネットを用いた高校における「総合的な学習の時間」に向けた教材作りを当面の目標に,「衛星データを用いた教育推進検討委員会」(委員長:東京大学教授・六川修一)を立ち上げ,高校の先生方にも加わって頂き,平成14年1月より活動を開始しました。そして,平成14年3月末に現状分析や指導事例集から成る報告書とそれを具体化した本教材を作成するに至りました。

本教材は平成14年度より高校の授業の一部で試験的に利用して頂き,先生方のご感想やご意見を受けて充実を図っていくことを予定しています。また,本教材で培ったノウハウを他の指導案に基づく教材作りの一助としたい考えです。本教材が高校教育の現場で少しでもお役に立ち,また衛星データの普及の助けとなり,また昨今の「理科離れ」に歯止めをかけることに少しでもお役に立てれば幸いです。


2. リモートセンシングについて

人工衛星や飛行機に載せたセンサによって電磁波(紫外線,可視光線,赤外線などの光から電波まで含みます)をとらえ,遠くにある物体を観測する技術は専門的にはリモートセンシング(Remote Sensing)と呼ばれます。

■ センサが観測する電磁波の出所

センサが観測する電磁波の出所は,波長4μm付近を境に異なります。これよりも短い波長の電磁波(紫外線,可視光線,赤外線の一部)は,主に太陽光が地球の表面や大気で反射した電磁波であり,これよりも長い波長の電磁波(赤外線の一部,電波)は,主に地球の表面や大気自身が放つ電磁波です。今回使用するASTERデータは前者の電磁波を観測したものです。

なお,電波を観測するリモートセンシングには,センサから地球に向けて照射した電波を観測するものもあります。この種のセンサは,自然発生の電磁波をとらえる受動型センサに対して,能動型センサと呼ばれます。

■ 大気の影響

地球の大気は様々な大気分子から構成されています。そして,各分子には特有の波長の電磁波を吸収する性質があります。従って,こうした吸収線が位置する波長の電磁波は地表から衛星に到達する間に減衰してしまい,衛星ではほとんどあるいは全くとらえることができません。地表を観測するセンサの場合には,こうした吸収線を避けて観測バンドが設定されます。なお,こうした大気分子の吸収線による影響を逆手にとって,吸収線の波長を観測することにより,大気自身を観測するセンサもあります。

■ 地表における反射

地表の様々な物質も,それを構成する分子や結晶がそれぞれ特有の波長の電磁波を吸収するため,反射特性は各物質特有の波長依存性を持ちます。例えば,植物の葉に含まれる葉緑素(クロロフィル)は可視光では青と赤の光を強く吸収し,緑の光はほとんど透過する性質を持つため,植物の葉に入射した太陽光のうち,緑の光のみが反射(一部透過)し,結果として緑色に見えます。また,水は広い波長帯で大きな吸収係数を持っているため,広い波長帯で反射率がかなり小さいのが特徴です。

■ センサの観測バンド

センサの観測波長(バンド)は,こうして大気の影響と地表の反射特性を考慮して,最適なものが選ばれます。例えば,地表を観測することを目的とするバンドは大気の影響が小さいことが条件となりますし,大気中の水蒸気量を測るセンサでは水蒸気の吸収帯にバンドが設定されます。また,地上の植生や植物プランクトンをとらえる場合には,葉緑素の吸収線に位置するバンドと,位置しないバンドを組み合わせると,より定量的な観測ができます。

なお,観測バンドの数,空間分解能,観測幅にはトレードオフの関係があります。つまり,理想的には観測バンドがたくさんあって,空間分解能が細かく,かつ観測幅が広い(一度に広いエリアを観測できる)ならば都合が良いのですが,これですと観測データのサイズがとてつもなく大きくなってしまいます。衛星と地上局の間の通信容量には限りがあるので,センサの目的を考慮して,最適なバンド数,空間分解能,観測幅の組み合わせが決定されます。

■ 参考になるサイト

リモートセンシングについての詳細は以下のページが参考になります。

地球観測体験館(現:地球観測研究センター)・・・JAXA(旧:宇宙開発事業団)による地球観測の基礎講座


3. ASTERについて

本教材では,経済産業省が開発したASTERというセンサのデータを利用して授業が進められます。ASTERはNASAの大型地球観測衛星Terraに他の4つのセンサ(アメリカのMODIS,MISR,CERESとカナダのMOPITT)と共に搭載され,1999年12月にカリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地から打ち上げられました。ASTERは,打ち上げ後の初期チェックを済ませた後,2000年9月末に定常運用に入り,順調に観測を続けています。

ASTERは,可視近赤外波長帯(VNIR)に3バンド(0.52-0.86μm),短波長赤外波長帯(SWIR)に6バンド(1.60-2.43μm),熱赤外波長帯(TIR)に5バンド(8.125-11.65μm)を持つ高空間分解能センサで,空間分解能はVNIRが15m,SWIRが30m,TIRが90mとなっています。また,VNIRのバンド3には2方向から観測するステレオ視機能があり,これにより地表の標高を観測することができます。

ASTERの観測データはアメリカで受信された後,日本のERSDACに送付され,処理されます。処理後のデータはERSDACと米国地質調査所EROSデータセンターの2箇所から配布されています。

■ 参考になるサイト

ASTERについての詳細は以下のページが参考になります。

ASTER地上データシステムプロジェクトのページ(日本語あり)

ASTERサイエンスプロジェクトのページ(日本語あり)

NASAジェット推進研究所のASTERプロジェクトのページ(英語のみ)

地球観測衛星Terraについての詳細は以下のページが参考になります。

NASAのTerraプロジェクトのページ(英語のみ)


4. 教材の概要と授業の進め方

本教材は以下の3回の授業から構成されます。
  1. 色の識別
  2. 宇宙から見たわたしたちの町
  3. 衛星画像を使った植生調査

■ 使用するASTERデータについて

第2回と第3回では,実際にコンピュータでASTER画像を操作します。できれば,生徒たちが衛星データを身近に感じるように,学校がある町のASTER画像を利用すると良いと思われます。 本教材には東京近郊のデモデータが含まれていますが,お住まいの町のASTERデータをご利用になられたい場合には,ASTER GDS利用者サービスまでどうぞお気軽にご相談ください。

■ 使用するソフトウェアについて

第2回と第3回ではGIMP for Windows jaという画像処理ソフトを使用します。このソフトはAdobe社のPhotoshopにも匹敵する多彩な機能を有する画像処理ソフトで,JPEGやTIFFを始めとする様々な汎用書式を扱うことができます。また,オープンソースの考えに基づくGNUプロジェクトによって作成されたフリーソフトであるため,使用や改変,再配布などの条件は非常にゆるくなっています。同ソフトは付属CD-Rに収録してあります。

■ 第1回:色の識別 [補足説明]

第1回はリモートセンシングにおけるバンド観測を擬似体験させる実験で,米国NASAのリモートセンシング教育プログラムに採用されているものを参考に作成しました。本実験では,まず暗室にて赤,緑,青の光の下,6つの異なる色の物体がどのように違って見えるかを観察させます。そしてその結果に基づいて,色の分からない紙の色を3色の光の中での観測結果のみから予想させます。この実験により,以下の学習効果が期待できます。
  • 物体を特定の色で観測するとどのように見えるのかを体験する。
  • 異なる色での観測結果を組み合わせると,実際の色が予想できることを理解する。
  • リモートセンシングにおけるバンド観測の意義と効果を理解する。

■ 第2回:宇宙から見たわたしたちの町 [補足説明]

第2回は, GIMPを使ってASTER画像を観察させるものです。まずGIMPを立ち上げてASTER画像を開かせ,画像の拡大・縮小・移動の方法をマスターさせます。その際,画像が小さな画素の集まりで構成されていることと座標の概念を理解させ,加えて空間分解能について理解させます。次に,なびウィンドウによる拡大・縮小・移動の方法,情報ウィンドウによるRGB値の表示方法をマスターさせます。そして最後に,地図を参考にしながらASTER画像を観察させ,生徒が識別できた地上物の名前や座標などを表にまとめさせると共に,どの程度の小さい地上物が識別できたか,衛星画像の色とわれわれが知っている色はどのように違うか,について考えさせます。以上により,以下の学習効果が期待できます。
  • 画像の基本操作をマスターする。
  • 画像が画素の集まりであり,各画素が座標を持つことを理解する。
  • 衛星画像で識別可能な地上物の大きさを知る。
  • われわれが目にする色と衛星画像の色は違いがあることを知る。

■ 第3回:衛星画像を使った植生調査 [補足説明]

第3回は,ASTER画像において植生がどのように見えるかを理解させ,加えて植生指標(VI)の有効性を理解させるものです。まずGIMPでASTER画像を色分解させ,バンドにより植生の見え方が違うことを理解させます。次に,植生地域とそれ以外の地域から10点ずつ画素を選んでRGB値を調べさせ,各値に対するVIを計算させます。最後に,植生と植生以外の各々についてR,G,B,VIの各ヒストグラムを作成させ,VIが植生分布の把握に有効であることを理解させます。以上により,以下の学習効果が期待できます。
  • 植生の反射特性について理解する。
  • VIを使うと,より明瞭に植生分布が把握できることを理解する。
  • 複数のバンドをうまく組み合わせて使うと,様々な情報が引き出せることを知る。


5. 更なる充実に向けて

本教材の更なる充実と今後の教材作りへの参考のため,先生方の率直なご意見・ご感想を下記までお気軽にお寄せ下さい。

社団法人・日本リモートセンシング学会