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10 大地の造形、海中ハイウェイ

 コバルトブルーの海の上を延々と続くハイウェイ。そんな道を車で走る爽快さは、車が特別好きでない人もきっと感じるはずです。海と空の境界を切り裂きながら走り抜けているような気がして、気持ちのいいものでした。でも、この海上ハイウェイは、私に多様な大地の世界があることを、気づかせてくれました。


 私は、アメリカ合衆国の国立公園が好きで、機会があれば訪れることにしています。1996年4月にフロリダ半島のケープカナベラルにあるNASAのケネディ宇宙センターを見学に行きました。その時、半島の南にあるエバーグレイズ国立公園とビスケーン国立公園を見学に行きました。さらに、足を延ばして、1日、キーウエスト(Keywest)を訪れました。

 フロリダキーズ(Florida Keys)と呼ばれる島並みを縫うように、U.S.ハイウェイ、ルート1が、フロリダ半島から先端のキーウエストまで続いています。島並みの中ほどにマラソンという町があり、そこから先へは、映画やCMで見かける7マイルズブリッジがあります。7マイルズブリッジは、アップダウンがあり、カーブもあるため、海の上を走っているような爽快な気分になります。

 キーウエストは、ルート1の尽きるところでもあります。キーウエストには、アメリカ本土の最南端(Southern Most Point)があります。本当の最南端は軍の基地がありますので、一般人は入れませんし、さらに先にも島々が続いています。

 ここから、約150kmほど南にキューバがあります。ここまでくると、私には聞きなれないスペイン語が多く聞こえてくるようになります。そんな南の果ての異国情緒あふれるキーウエストを、文豪ヘミングウェイは愛し、8年間、家族と暮らした家が今では博物館となっています。

 フロリダ半島は、湿地帯であります。湿地帯も多様な環境があります。例えば、湿地帯の中に丸く小さな丘がこんもりとあります。そんなところには木が生えています。湿地の植物がぎっしりと支配しているなかに、そんな島のような小さな森があります。植物と共存して、湿地に適応できる動物もすんでいます。なかでも、野生のワニはなかなか迫力がありました。

 こんな平坦な湿地帯では、岩石や地層をみることはむつかしいものです。しかし、私は、たまたま道路際で、電柱を立てるための工事現場で穴を見つけました。そこを覗いてみると、貝がらだけからできている岩石がありました。岩石というより固まりかけの礫が集まったようなものでありました。強く触るとくずれそうなもろいものでした。また、フロリダキーズの島では、マングローブの隙間や海岸に、死んでしまったサンゴが石ころとしてたくさん転がっていました。

 フロリダ半島からフロリダキーズまでは、浅瀬で堆積物を運ぶ大きな川もなく、貝殻やサンゴくらいしか硬いものがない地域なので、そのようなものが、岩石のもととなるのでしょう。でも、土砂からできている堆積岩しかみかけない私にとっては、ちょっと不思議な気がしました。

 私は、降雨量の多い温帯の火山地帯である日本列島に住んでいます。このような環境では、火山岩や山を構成する各種の岩石を起源とする土砂が、川によって海に運ばれ、堆積します。堆積物はやがて堆積岩となり、その一部は、大地になります。そんなことが繰り返し起こっているところが日本列島です。ですから、堆積岩というと土砂が固まったものというイメージが、日本ではできてしまいます。これは、日本人の常識、あるいは先入観というべきものです。

 日本での堆積岩の常識は、あまりにも局所的で、小さいものです。地球はもっと広く、多様なのです。フロリダキーズの石ころは、私にそんなことを気づかせてくれました。

 さらにもう一つ、大切なことをフロリダキーズは、私に気づかせてくれました。

 フロリダキーズやキーウエストで使われているキーとは、フロリダのこの地域でよく使われている言葉で、サンゴ礁のことを意味します。スペイン語のcayoから由来しています。

 フロリダキーズは、北東に位置するビスケーン湾から、南西のキーウエストまで、弧状に、200kmほども続くサンゴ礁の島のつらなりです。サンゴ礁は浅瀬にできます。ですから、フロリダキーズは、もともと深い海ではなく、弧状にのびる浅瀬に形成された島並みなのです。

 衛星画像や海底地形図を見ると、そのようすをみることができます。浅い海底の地形が連続していて、フロリダキーズはフロリダ半島の延長として大地が続いていることがよくわかります。フロリダ半島は、湿地ですが陸地として海上に恒常的に顔を出しています。いっぽう、フロリダキーズでは、陸地に顔を出している部分は点々として少ないですが、海底地形を見ると、大地が続いているのです。

 フロリダ半島もフロリダキーズも一連の地形的高まりがあり、半島では、湿地帯となり、先端では海の要素が強いサンゴ礁の島の連なりとなっています。つまり、海底にも大地のハイウェイがあったのです。

 人のつくった車数台分の幅の狭いハイウェイより、もっと長く太いハイウェイが、フロリダ半島の先にはあったのです。大地は巨大な造形を、人より先につくっていたのです。人の造形は、人のサイズでしかありません。でも、大地の造形は、そのスケールが違っていました。そんな雄大さをフロリダキーズは気づかせてくれました。

 フロリダキーズ、大地と海の境界に位置するところです。その隙間に人間は分け入っています。でもそれは、もしかすると、ささやかなものなのかもしれません。でもそんなささやかな進入にも、私に、爽快感を与えてくれたのです。大地の大きさに比べて、人間のスケールの小ささも感じさせてくれました。

2003年10月1日
小出良幸

 

 

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 画像-1 フロリダ半島〜キーウエストの衛星画像
2000年8月18日、2002年10月31日、2003年3月8日、2003年3月24日、2003年1月19日、2002年1月9日観測のASTER/VNIR)
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 2000年8月18日(左から1番目の画像)、2002年10月31日(左から2番目の画像)、2003年3月8日(左から3番目の画像の上部に隣接している 画像)、2003年3月24日(左から3番目の画像)、2003年1月19日(左から4番目の画像)、2002年1月9日(右の画像)に観測されたASTER/VNIRの画像を合成して作成した擬似ナチュラルカラー画像です。この画像は、光の三原色の赤をASTER衛星のバンド2に、緑をバンド1と3に、青をバンド1に割りあてて作成したものです。衛星画像では、数枚の画像を合成していますので、雲によって継ぎ目が気になりますが、全体像が見渡せます。フロリダ半島の先から、フロリダキーズにかけての地形が良く見えます。また、フロリダ半島の南側に、海底の高まりが赤から茶っぽい色で示されています。衛星画像でも海底の地形がよく見えます。フロリダキーズでは、衛星画像から、陸地に顔を出している部分は点々としかなく少ないですが、中央で切れてはいますが、大きな高まりが海底にあることがよくわかります。

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画像-2 
キーウエストの衛星画像
(2
002年10月31日、2000年8月22日、2003年3月8日観測のASTER/VNIR)

画像の拡大(jpegファイル2.6MB)

 2002年10月31日(西部)、2000年8月22日(中部)、2003年3月8日(東部)に観測されたASTER/VNIRを合成して作成したフォールスカラー画像です。フォールスカラー画像は、光の三原色の赤をASTERのバンド3に、緑をバンド2に、青をバンド1に割りあてて作成したものです。フォールスカラー画像では、島になっている陸地は赤や白色に見えますが、浅い海底は青や緑色に見えます。衛星画像でも海底の地形がよく見えます。衛星画像では、その大地のハイウェイが色鮮やかに写っています。

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図-1 画像位置図

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写真-1 長くのびる海洋ハイウェイ

 海上を延びるハイウェイは、ちょっとしたハンドル操作のミスが、命取りになります。でも、そんな不安を吹き飛ばすほどの爽快さがあります。

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写真-2 青い海と白い浜

 熱帯のリゾート地の光景です。熱帯らしく、激しいスコールがあります。スコールには、前が見えないくらいの激しいものがあります。こんなときは、じっと通り過ぎるのを待ちます。スコールはすぐにやんで、熱帯の強い日差しが戻ってきます。

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写真-3 青海の先には

 アメリカ本土の最南端(Southern Most Point)があります。しかし、それは、一般の人が入れる地としてでありました。本当の先端はもっと先にあります。そこは軍の施設でした。以前はキューバとの緊張した時期があったので、このようになったのでしょうか。街の人たちは、キューバで使われているスペイン語を話す明るい人たちでした。そんな国境は、人たちの間には見えませんでした。

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写真-4 マングローブ

 島々にみえる緑は、マングローブなどの熱帯の海岸にあるような植物でした。日本でも沖縄に行けば見ることができますが、海水にも負けない強さをもっているのです。

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写真-5 サンゴの岩場

 ある海岸には、サンゴのカケラがごろごろしているところがありました。やはりここは、サンゴ礁の島であることを気づかせてくれました。

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写真-6 サンゴ

 海岸に転がっている岩をみると、サンゴのきれいな模様を見ることができます。このサンゴは、モニュメントに使われていたものです。その地のモニュメントは、その地の石でつくられるのがふさわしいです。どこからか持ってきたような石ではなく、地元のサンゴでつくられているのがよかったです。

 

画像-1〜2についてはJSSに、写真-1〜6および文章に関しては札幌学院大学小出良幸に著作権(所有権)が帰属いたします。転用等の際はJSSの許可が必要です。


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