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01 富士山:災害と防災  

 富士山は、標高3,776mで、日本で一番高い山、つまり歌でうたわれるように「日本一の山」でもあるわけです。でも、富士山は、高いだけでなく、まわりの山から独立し、きれいな円錐形をしているので、姿かたちからも、「日本一の山」というにふさわしい山です。ところが、このきれいな姿は、火山活動の繰り返しでつくられたものなのです。富士山は、これからも活動する活火山なのです。 


ASTER Mt.Fuji 3D View

図-1 富士山鳥瞰画像(2002年10月4日観測のASTER/VNIRおよびDEMデータを用いて作成)

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 人工衛星は、上空から画像をとります。ですから平面の画像となります。しかし、ここで示した画像は、まるで、飛行機から斜めに見下ろしたような画像(鳥瞰図)です。この画像も、ASTERの画像からつくったものです。ひとつの地点を、真上から見た(直下視とい います、バンド3N)画像と、後ろに見た(後方視、バンド3B)画像を利用して、そのずれから、標高を求めることができます。約10mほどの精度で、標高を求めることができます(デジタル標高モデル、Digital Elevation Model、DEMと略されています)。平面画像に標高の情報を加え、3次元情報にしたものから、この画像は合成されました。

ASTER Mt.Fuji 2D View

図-2 富士山画像(2002年10月4日観測のASTER/VNIR)

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3次元画像にする前の、2次元画像。

 

図-3 画像位置図

 富士山の最初の火山活動は、約10万年前です。その後、繰り返し起こった噴火と、何度かの山体の崩壊をへて、約1万年前には、今のようなきれいな姿の成層火山となりました。その火山の記録は、周辺に広がる溶岩や火山噴出物などの研究や、古文書などの記録から詳しく再現されてきています。そのような研究から、1万年前に誕生した現在の富士山は、まだ活動途中の火山で、これからもまだまだ活動する若い活火山であることがわかってきました。

 富士山の噴火としては、1707年(宝永4年)の噴火が有名です。このときの噴火によって、富士山の南東腹側の3つの火口(宝永(ほうえい)火口と呼ばれています)ができました。300年も前の噴火ですが、このときの噴火はすさまじく、また、当時日本で最大の都市であった江戸に近かったので、記録もたくさん残っています。

 その後、富士山では大規模な噴火はないのですが、2000年10月から12月、そして2001年4月から5月にかけて、低周波の地震が、富士山で多発しました。このときのことは、マスコミでも報道され、富士山が噴火するのでは、という心配がされました。しかし、地震がおさまるとともに、報道もおさまりました。まさに、喉もと過ぎれば、なんとやらです。

 実は、研究者は、それほど噴火を心配していませんでした。なぜなら、震源は浅くはなかったし、地殻変動も観測されていなかったからです。少し、それについて説明しましょう。

 火山とは、マグマが深部から地表に上昇してきて、噴出する現象です。地下にはもちろん岩石がつまっています。マグマがあがってくるには、上にある岩石を押しのけなければなりません。岩石は硬いものです。ですから、押しのける時には、岩石が割れたり、壊れたりします。これが地震です。ですから、マグマがあがってくる時には、震源がだんだん深いところから上に向かって移動してきます。そして、浅いところまで震源がきたとき、火山が噴火するのです。

 また、マグマが地表近くまで、上がってくると、地表は持ち上げられます。そこが山なら、山の傾斜に変化がおこります。

 このような現象が、今回の富士山の活動では、見られなかったのです。

 噴火の可能性がある活火山では、地震計や傾斜計(地表の傾斜を測定する装置)を多数設置して、常時、観測されています。このような観測がされているとこでは、噴火の危険性があるかどうかは、早期に予測することができます。まだ、日時や、噴火の場所、規模などの正確な予測はできませんが、精度は、かなり上がってきています。

 火山は、自然現象です。ですから、人は、観測や予測はできますが、防止することはできません。火山噴火は、とめることはできないのです。したがって、火山噴火のような自然現象に対して、人がどう対処するかが、防災という考え方によります。

 もし、火山や地震で被害がなかったとしたら、それは、たんなる自然現象にすぎなくなります。もし、被害が生まれたとき、その自然現象は、災害となります。災害とは、自然現象に対して、人がどう対処したかということが加味された、総合的な結果といえます。ですから、災害を減らし、なくすために防災に取り組めば、いいのです。

 防災をしないときは、もちろん被害は大きくなります。その時の災害は、人災の要素が多くなっています。ですから、最近では、観測のいきとどいた火山では、大量の人が被害を受けることは少なくなってきました。

 防災は、研究者、行政、メディア、そして市民が、有機的に連携することが大切です。研究者の長年の努力よって、観測により噴火の予測は、かなりの精度があがってきました。その情報に基づいて、防災の対策をどうするかについては、近年では行政側の取り組みには、目覚しいものがあります。

 あとは、その成果が、市民にどの程度伝えられ、取り入れられるかです。そのためには、メディアが、火山という自然現象への見識をもち、防災の重要さの認識し、そしてそれを市民に伝えるという責務を果たす必要があります。さらに、最終的には、各個人が、その危険性と安全性を理解し、緊急時の対処を常に意識していなければなりません。ですから、「喉もと過ぎれば」、というのは、まだ、その連携が不十分であるということなのでしょう。

 この統合的な結果が、火山災害になるか、あるいは火山という自然現象になるかの分かれ目かもしれません。

 富士山はまだまだ若く、これからも活動を続けるはずです。ですから、「日本一」の雄姿をみたとき、富士山は、火山噴火によってつくられ、今後もまだ富士山は活動を続けるのだ、ということを再確認する必要があります。富士山は、活火山なのです。

2003年1月1日

 

図-4(a) 富士山

 静岡県と神奈川県の県境にある箱根の乙女峠(富士山の南東側)からみた初冬の富士山。 成層火山のきれいな形態をもっています。周囲の山と独立しているから、いっそう美しくみえます。山腹の右手(雪をかぶっているが黒くなっているところ)に宝永火口がみえます

図-4(b) 縄状溶岩

 山梨県南都留郡鳴沢村の火山博物館の野外展示にある露頭でみられる縄状溶岩です。縄状の模様は、粘性の低い溶岩が流れてできたものです。

図-4(c) 玄武岩の標本

 富士山の溶岩の断面を研磨した標本。玄武岩とよばれる火山岩で、ガスが抜けたあとの穴 (発泡という)がたくさんあいています。白っぽくみえるものは、斜長石の大きな結晶 (斑晶とよばれる)です。

図-4(d) 玄武岩の偏光顕微鏡写真

 富士山の玄武岩の偏光顕微鏡写真(上がオープンニコル、下がクロスニコル)。大きな結晶(斑晶)の部分と、小さな生地(基質とよばれる)の部分からなります。斑晶は、長石 (白から灰色で長柱状の結晶)と単斜輝石(網目の割れ目と色鮮やかの結晶)からできていて、基質は、微小な長石、単斜輝石、ガラスなどからできています。

図-1,2についてはJSSが図-4および文章に関しては札幌学院大学小出良幸に著作権(所有権)が帰属いたします。転用等の際はJSSの許可が必要です。


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